心理学>嗅覚記憶と「プルースト効果」と嗅覚受容体の話
この記事で、私にとって柑橘系の花の香りは幼児の記憶を呼び覚ます郷愁の香りだと書きました。
特定の香りを嗅ぐことで、関連する過去の記憶が呼び覚まされる心理現象は
「プルースト効果:Proust effect」と呼ばれます。
仏作家M・プルーストの長編小説「失われた時を求めて」で主人公が同様の体験をすることから名付けられました。
👇「失われた時を求めて」は直訳版だと文庫でも全13巻です😅
気が遠くなりそうな方には妙訳版全3巻もあります。
人間の五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)の中で、嗅覚は脳の記憶と感情を司る潜在意識の中枢部位=大脳縁辺系をダイレクトに反応させることができます。
嗅覚以外の四感は迂回ルートを取ります。
顕在意識の中枢部位=大脳新皮質を介してから潜在意識の中枢部位=大脳縁辺系に達します。
しかし嗅覚は大脳新皮質を通さず、直接大脳縁辺系に達します。
大脳縁辺系には、海馬(記憶を司る)と扁桃体(感情を司る)があります。
つまり匂いを嗅いだ瞬間に、潜在意識に眠る「記憶」と「過去の感情」を蘇らせること(=フラッシュバック)ができるのです。
匂いは分子です。
小難しく言うと、匂い物質とは、分子量30〜300程度の揮発性低分子化合物のことです。
この空気中の化学物質を鼻腔の奥にある嗅細胞(感覚細胞)が神経細胞活動に変換し、嗅皮質という部位で認識するのが「匂い」です。
匂いを感じるメカニズム。
画像は日本デオドールより。
生物が認識できる物質は、嗅覚神経系の受容体の有無によって決まります。
そして受容体の有無は生物の種によって異なることが明らかになっています。
例えば人間は二酸化炭素の匂いを感じることができません。
しかしネズミを含む一部の動物は、二酸化炭素受容体を持っており、匂いを感じていることがわかっています。
がん患者特有のにおいが分かる「がん探知犬」が近年話題になっています。
精度9割超でがん患者を当てた、という報道も見ました。
つまり犬はがん細胞を認識できる嗅覚神経系受容体を持ち、人間は持たないということです。
嗅覚が大脳新皮質(理性を司る)を通さず大脳縁辺系(本能を司る)に直接届くと言うことは、匂いの好き嫌いには理性が働かないことも意味します。
ある人が一度嫌悪感を感じた匂いが好きに転じることはまずありません。
👇私の場合それは熱したバターです😓
画像はクックパッドより。
特定の匂いで昔の記憶が蘇るなど、匂いが感性に強く響くのもこのためです。
ホモサピエンスは400の嗅覚受容体遺伝子を持ち、それを使って1万種類の匂いを嗅ぎ分けていると言われます。
地球上の生物で一番嗅覚受容体遺伝子数の多い生物はアフリカゾウ。
その数はイヌの2倍、ホモサピエンスの5倍のなんと2,000❗️
ちなみに発見したのは東京大学大学院農学生命科学研究科の研究者です。
例えばケニア🇰🇪に生息する野生のアフリカゾウは、人間(ケニア人)を百数十と言われる民族集団※ごとに匂いで識別し、狩猟民族を避けるように行動しているという報告もあるそうです。
※ケニア政府公認の民族数は42、民族集団は百数十と言われます。
👇像の画像はWikipediaより。
一方、ゾウと同等の知能を持つと言われるイルカは一度陸に上がったのち再度海に戻った哺乳類です。
海の環境に適応するため嗅覚を発達させ、エコーロケーション(反響定位)という特殊能力を得た代わりに嗅覚受容体遺伝子のほとんどを失いました。
つまりイルカは匂いが分かりません。
👇人魚姫には嗅覚があるんでしょうか❓
画像は東映アニメーションより。
ところで人間は自分達は体臭が少ないとても清潔な生き物だと信じています。
それゆえ「動物は臭い❗️」「臭いから嫌い❗️」といった発言を平気でする傾向がありますが、実は自分の匂いは意識しないようにできているに過ぎません。
他の動物が人間の匂いを嗅いだ時の反応から分析すると、人間は実に強い匂いを発している
「非常に臭い生き物である」と学者は言います。
その「自分の匂いだから意識しない」はずのものが突然臭く感じるのは病気のサインのことが多いです。
こちらも注意したいものです。
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