古典落語ご紹介>③「一眼国(いちがんこく)」:立場が変われば価値観も変わる
私が自分の言葉で要約したあらすじのため、落語家の方々が語る言葉とは違うことを予めご了承ください。
また処どころに解説(もちろん落語家は言わない部分)も入れています。
日本全国を巡礼しながら経文を寺に納める、六十六部という職がありました。
見世物の興行師が一人の六十六部を招き入れ、珍しい話を聞かせてくれと頼みます。
「最近の見世物の客は珍しい物に慣れてしまって、もうちょっとやそっとことでは驚かないのでね。日本中を歩いたあんたなら、うんと珍しい話を知ってるに違いない」
食事をふるまわれた六十六部が、思い出したように語り始めます。
「そういえば私は一度、一つ目のお化けを見たことがございます」
それは江戸から北へ百里(400㎞)ほどのところ。
大きな原っぱにさしかかったところで日が暮れかけてしまった。
歩けども歩けども人家がない。
困ったなと思っていると一本の榎(えのき)の大木があって、前を通ろうとすると寺の鐘の音が聞こえ、生ぬるい風が吹き、後ろから子供の声がした。
「おじさん、おじさん」
振り向くと、そこにいたのは一つ目小僧の子ども。
「大慌てで逃げ出して助かりました」と語る六十六部。
それを聞いた興行師は大喜び。
一つ目小僧を捕まえて見世物にすれば大儲けだと張り切ります。
興行師は北を目指して旅に出て、何日も歩いて大きな原っぱにたどり着きます。
「ここだな。お、あそこに榎がある」
期待して榎の前を通り過ぎると六十六部の言ったとおりに鐘の音が響き、生ぬるい風が吹き、後ろから男の子の声がします。
「おじさん、おじさん」
やった!とばかり猫なで声で子供を招き寄せ、抱え上げて連れ去ろうとしたところを大勢の大人に取り囲まれ、興行師は捕らえられてしまいます。
誘拐の罪で代官所に引っ立てられた興行師。
そこにいるのは、役人も誰もかれも皆一つ目ばかりではありませんか。
驚いた興行師がブルブル震えていると、役人たちが口々に言います。
「おい見ろ、こいつ、目が二つもあるぞ」
「取り調べは後回しだ。さっそく見世物にしよう」
立場が変われば価値観も変わる。
マジョリティとマイノリティなんて、あっという間に逆転するかもしれませんよ。
ねえ、岸田さん?
☟「一つ目小僧 いらすとや」で検索したら出て来たイラスト。
これは「落語 化け物使い」らしいですが、流用させていただきます。
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