人類の遺伝子的多様性の低さの原因は過去の気候寒冷化かもしれないという話<前編>
「多様性」が流行語になって早や幾年(いくとせ)。
しかし、現生人類ホモサピエンスのDNAの多様性は、実は他の生物種に比べとても低いことがわかっています。
こう言うと絶対
「そんなはずない。黒人と白人では見た目も全く違うじゃないの!!」
とか反論されそうですが、まあお待ちください。
例えば、馬。
馬の平均体高(肩までの高さ)は165㎝前後です。
しかし内訳は体高80以下のファラベラ種から200㎝を軽く超える重種馬(ペルシュロン腫やサイアー種)まで、実に多様性に富んでいます。
ファラベラ種は、小柄なメスだと成体でも体高40㎝ほどの個体もいるそうです。
中型日本犬(紀州犬・四国犬・甲斐犬・北海道犬等)の標準体高がオス52㎝メス49cmなので、ソフトバンクのお父さん犬よりも小型なわけです。
⇩犬と馬。
馬はファラベラのオトナです。
画像はみんなの乗馬よりお借りしました。
一方、ホモサピエンスはどうでしょうか。
小柄と定評の日本人の男性平均身長が170㎝前後、高身長国(平均身長の数値が世界一)と言われるオランダ人男性でも184㎝と、その差はわずか14㎝。
画像はカラパイアよりお借りしました。
馬の体高差と比べたら、身長14㎝差など誤差の範囲です。
その原因についてはまだ諸説ありますが、有力説の一つががこちらです。
気候寒冷化
今世紀に入り人類のミトコンドリアDNA解析プロジェクトが開始されました。
その結果、現代人の共通祖先は20万年前の一人のアフリカ女性に行き着くと発表され、世界を驚かせました。
彼女は「ミトコンドリア・イブ」と名付けられました。
アダムとイブのイブです。
ミトコンドリアDNAは母系遺伝をする※ので、イブしか判明しなかったわけです。
※数年前に異論も発表されましたが、収拾がつかなくなるのでとりあえずは「母性遺伝する」で話を進めます。
今生きている全人類の約98%が、彼女のDNAを受け継いでいると発表されました。
逆に言うと、何らかの遺伝子的優位性(環境順応力の高さ)を持つ個体だったと思われる彼女の子孫が、その優位性ゆえに現代まで生き延びることに成功した。
その原因はまだはっきりとは解明されていません。
一方で、近年わかってきたのがイブ登場よりももっと昔、90万~100万年前頃に起きたとされる気候大変動です。
長くなるのでひとことで書くと、地球寒冷化です。
1度目の気候寒冷化:約100万年前
その頃はまだアフリカ大陸のごく一部だけに生息していた人類の祖先は、急激な寒冷化によりバタバタと死んでいき、人口1,000~2,000人ほどにまで減少したと言われています。
現在の絶滅危惧種・アムールトラの野生個体数が500頭前後ですので、いい勝負です。
福岡市動物園のアムールトラ、ヒューイ君。
画像は動物園公式ブログよりお借りしました。
そこから約10万年間、人類の人口は横ばい=絶滅危惧種でした。
絶滅寸前の人類の数が再び増加に転じるのは、80万年前頃からだそうです。
そして地球寒冷化を辛くも生き延びた、おそらくは寒さと飢えに対する順応力の高い遺伝子を持つ集団の中に、約20万年前にイブが誕生します。
そして同じ頃、人類は出アフリカ(人類大移動=全世界への徒歩拡散)を始めます。
アフリカ大陸を出発し、ヨーロッパからアジアを経てシベリアと地続きだったアラスカに渡り、南北アメリカ大陸を縦断し、南米南端まで。
20万年前から6万年前までの約14万年をかけて全長3万3千㎞を歩き、世界中に拡散しました。
その最中の約7万年前に、もう一度突然の気候寒冷化が起きたとされます。
2度目の気候寒冷化:約7万年前
スマトラ島のトバ火山が大噴火を起こし、噴き上げられた噴出物の容量は2,000 km³。
この大量の噴出物(火山灰など)が半径数千㎞に渡って日光を遮断。
地球の平均気温を5℃低下させるほどの影響が、約6,000年間も続いたとされます。
ここで人類はまた大量死を余儀なくされますが、再び辛うじて生き延びて、何とか文明を築いて現在に至る。
そして現在の人類の98%がイブの遺伝子を持っているという解析結果。
つまり、イブのDNAは寒さと飢えに対して特に高い順応性持っていたのでしょう。
こう言うと今度は
「そんなスーパーエリート母さんの子孫で、強い遺伝子を持っていて、どこがダメなんですか!?」
と、またまた反論されそうですが…。
ちょっと長くなったのでここらへんで<後編>に続きます。
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