映画レビュー>「鈴木さん」(2020年公開)ありそうで怖いディストピア
Amazonプライムビデオで観ました。
現人神(あらびとがみ)を国家元首にいただく、どこかの国。
煙を吐いている富士山が何度も映し出されますが、よく見ると噴煙が全く動かず静止してます。
郊外型(コテージが敷地内に点在している)廃ラブホテルを老人ホームにして経営している中年女性・土田よしこ。
演じるのはいとうあさこ氏。
劇中の台詞では「よしこさん」呼びだけで苗字には触れられませんが、物語の鍵となる婚姻届に「土田よしこ(振仮名:つちだよしこ)」と書かれています。
土田よしこと言えばご存じアニメ化もされたギャグマンガ「つる姫じゃ〜っ!」の作者さんの名前です。
昨年9月に75歳で亡くなられましたので、この「鈴木さん」公開時にはまだご存命でした。
…いいのかな?
ついでに婚姻届に書かれたよしこの生年は「天照3年」となっています。
彼女はあと3か月で45歳の誕生日を迎える中年独身女性です。
少子化に悩むこの市ではつい先日、住民投票の結果ある条例の施行が決定しました。
●45歳になった時点で未婚の市民は住民資格を剥奪され、追放される。
●住民資格を失いたくない未婚者は軍隊に入るしかない。
●現在国際情勢は非常に危うく、今にも開戦しそうである(物語後半では開戦宣言も出される)
街中でもただのラーメン屋が「入っていいのは若い人だけ。それ以外は入店拒否」なんてことを堂々とやっています。
また不良青年どもがホームレス狩りをしても不法侵入をしても、警察は「若者は国の宝だ」とかいう理由で若者をかばい、何なら迷惑をかけられた方が悪者扱いされます。
え?何このあたりの妙なリアリティ?
怖いんですけど。
「この施設は今年は補助金は出そうにないです。なぜなら経営者のアナタがもうすぐ住民資格を失うから」
なんてことを、作り笑いを顔に貼り付けたような市役所職員に腹立つくらい明るく宣言され、施設を閉鎖したくないよしこは困り果てます。
市長(演じるのは宍戸開氏)に直談判に行くよしこ。
しかし適当にあしらわれたうえ「まともな格好をしてまたいらしてください」と、みすぼらしい服装を笑い者にされます。
そこへ、よしこと年の近そうなホームレスが老人ホームに迷い込んできます。
演じるのは佃紀彦氏。
「半沢直樹」で、半沢と対立する次長を演じたあの人。
ホームの入居者たち(お婆さんオンリー)に勝手に「鈴木」と命名されたその男性は、ボロボロの身なりの割にはきれいな指(労働者の指ではない)を持ち、ヴァイオリンやオルガンを弾きこなし、楽譜が読めます。
性格も素直で良い人そうです。
よしこは彼に、衣食住の提供の代わりに偽装結婚を持ちかけます。
「そうしないと、生きていけないんで…」
これ以上書くとネタバレになってしまうので避けます。
少子化問題以外にも「監視社会」「全体主義」「同調圧力」「洗脳」「多様性否定」「いじめ体質」など、日本に実在するネガティブ面をこれでもかと強調した本作。
誰も死なないけど※リアリティがほんと半端なく怖い。
※あ、ウソ1人死んでます。
よしこの同級生「エンドウさん」が軍隊に志願して、戦死したと伝えられました。
(直接描写は無し)
評価🌟🌟🌟🌟(4.0/5点満点中)
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