映画レビュー>「キャラクター」❸印税に幻想を持たせ過ぎ<後編>
昨年の今日はこんな記事を書いていました。
なんとなく再公開です。
初公開:2023/08/15 21:00
❷はこちらです。
担当編集者の案内で山城の新居(セキュリティが超厳重なハイグレードタワマン)を訪れた刑事(中村獅童と小栗旬)は、圧倒されて質問します。
「漫画家ってそんなに儲かるんですか?」
それに対して編集者はこう答えます。
「500円の単行本が100万部売れたら、その1割が印税です」
「億プレーヤーですか!」「ほおお!」と感心する刑事さんたち。

部屋に入ってまた驚き。
なんと、マンションなのに階段があって2階があるよ。
内装も高級家具が並んで超オサレ。

しかし、待ってください。
新人~中堅漫画家の場合、単行本の初版部数は講談社(日本一の大出版社)クラスでも1万部が常識ですよ。
それが売れに売れて増刷に次ぐ増刷に次ぐ増刷、さらに巻数が進んでアニメ化やドラマ化の打診も飛び出し…でようやく達するのが100万部領域。
それに印税は単行本が1冊売れるごとにリアルタイムで振込まれるわけでもありません。
出版社によっても異なりますが、3か月ごと、6か月ごと、1年ごとなど「締日/支払日」が決まっています。
単行本化のペースは連載時の頁数によっても異なりますが、週間連載の場合だいたい3か月おき(年4冊)から2か月おき(年6冊)です。
映画の中で小栗旬が上司の中村獅童に見せるのは、山城のデビュー単行本の1巻。
その後は連載されている週刊誌が出て来て、次に新発売の単行本が紹介されます。
おそらく2巻。
仮に1巻が重版に重版を重ねてわずか1年足らずで100万部売れたという設定だとしても、500円×100万部=5億円の1割は5千万でしかありません。
「連載されている週刊誌の分は?」と思われた方へ。
印税(歩合報酬)は単行本にしか払われません。
雑誌掲載時に支払われるのは原稿料(固定報酬)のみです。
原稿料の計算
漫画の原稿料の相場はド新人で3~8千円(出版社の財力による)連載作家で1~4万(売れ方による)。
One-Pieceの尾田栄一郎クラスでも5万どまりがふつうです。
しかも支給時には1割(100万円未満の場合)から2割(100万円以上の場合)を源泉徴収で差引かれます。
また1週間に19ページ(小年ジャンプの基本頁数)の絵を一人で描くのは無理筋なので、アシスタントが必要になり、その報酬も払わなくてはいけません。
仮に週19×4=月産76枚を原稿料1万円で描くと76万円。
1万円が源泉徴収されて支給額は約68万円。
背景担当と仕上げ担当で計2人のアシスタントを雇うと仮定すると、月に最低でも30万ほどのアシスタント報酬を払うことになります。
残った38万から自分の国民年金と国民健康保険を払わなくてはなりません。
国保には扶養制度がないので、妻に仕事を辞めさせた山城は妻の国民年金と国民健康保険も支払う必要があります。
印税の計算
次に印税。
- 1巻が100万部売れた。
- 山城の描く出版社が幸運にも3か月ごとの印税支払を採用していて、早くも1巻の分の印税が支給された。
と仮定します。
5千万引く1千万(源泉徴収率が20%)で支給額は4千万。
漫画家=個人事業主なので事業所得として確定申告することになります。
最高税率の40%が適用となるでしょう。
確定申告後に源泉徴収済分との差額を追加納税する必要があります。
住民税(これも高い)分と合わせて手を付けずに取っておく必要があります。
というわけで、仮に単行本1巻が爆売れしても、アニメ化も映画化もされていない状態では漫画家はそんなに調子には乗れません。

結論
One-Pieceの尾田栄一郎氏は、2020年の推定年収が30億円と騒がれました。
この映画もそんなイメージで描いてるかな?と思いました。
しかし尾田栄一郎氏とてデビューしてすぐ、単行本を2~3冊出した時点でその域に達したわけではもちろんありません。
One-Pieceの場合、正規翻訳版(つまり海賊版ではなく、尾田氏にキッチリ印税が支払われる契約)を出版している国だけで57か国に上ります。
日本を加えて58か国での年間単行本売上が約3,000万部。
仮に1冊50円として、印税15億円。
残りの15億円はグッズなどへの版権使用料です。
これも当然世界数十か国分の合計です。
結論:デビュー単行本1~2冊が当たっただけで即150平米のタワマンに引越すのは、無謀。
というわけで、マンガ読みの私の口から出た言葉がタイトルの通りです。
「印税に幻想を持たせ過ぎ~~」


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