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 青蛙 おのれもペンキぬりたてか ー芥川龍之介ー



                                       

「インターステラー」のマン博士に色々考えさせられた

Millie Endo


映画「インターステラー」の世界では、環境の激変で作物の生育が年々悪くなり、人類は緩やかに絶滅を待つより他ないジリ貧の苦境に立たされています。


SFでは非常にありがちな設定です。


そしてSFではしばしば、例えば「宇宙戦艦ヤマト」のように、異星人が魔法のような解決方法を無償供与してくれたりします。


が、本作にはそんな棚から牡丹餅を落としてくれるような親切な宇宙人は出てきません。


またSFではしばしば「北斗の拳」のように、環境が激変すると文明が完全に失われ、暴力が支配する無秩序な世界になったりもしますが、本作にはそんな暴力や悪も存在しません。


「インターステラー」に出てくる人々は皆、基本的に善良です。


善良な人々は、善良であるがゆえに、善意で地球にしがみ付き続けようとします。


国民のほぼ全員を半強制的に農業に従事させ、食糧生産量を上げることで、どうにもならない運命をどうにかしようとします。


国民の意識を目の前の事象だけに固定するために、アポロ11号が月に行ったことも


「ソ連のライバル意識をあおり、宇宙開発費の無駄遣いをさせて自滅させるための意図的な作り話だった。作戦が功を成してソ連は本当に自滅した」


と子供たちに教育しています。


NASAの元パイロットだった主人公も、今は不承不承、トウモロコシ農家の農夫です。


⇩下画像は「CG大嫌いマン」のノーラン監督(右)が作らせた、500エーカー(東京ディズニーランド4つ分)のトウモロコシ畑。

海外サイトFandomwireからお借りしました。




しかしNASAは秘密裏に存続していました。


偉い物理学者は、人類移住計画を模索していました。


主人公はパイロット時代の優秀な腕を買われ、計画に参加します。


NASAはそれより先に、12人の研究者(全員博士)を、土星付近に発見されたワームホールを使って遥か彼方の宙域に送り込んでいました。


12人はそれぞれ別の星に送られ、そこが人類生存可能な環境と判断した場合のみ、合図を発信し、自らコールドスリープに入って後発隊(主人公たち)を待つ段取りです。


12人というのは、12使徒のメタファーですね。


12使徒画像はatwikiよりお借りしました。

真ん中のキリスト以外の12人ですね。




あいにく人類の生存が不可能な星だった場合、彼/彼女は一人孤独に死を受け入れるしかない。


不運にも生存不可能な惑星に送られてしまったパイロットを、後から回収できるほどの余裕は、NASAにはないためです。


宇宙船内の食料や水が尽きれば辛い餓死が待っていますから、彼/彼女は合図を発信しないまま自らコールドスリープに入り、二度と目覚める機会のない、緩慢な自死を選ぶしかない。


それはいったいどれほどの絶望感なのでしょうか。


信号を受けて、本当に人類移住が可能か確認に行く後発隊パイロットに、主人公は選ばれます。


人類生存可能の合図を送信してきたのは、12人中3人でした。


残りは孤独死です。


しかし主人公たちは「人類が生存可能な惑星が3つもあった」と歓喜します。


宇宙飛行士に選ばれるには、フィジカル面もさることながら、メンタル面を非常に厳しくチェックされるといいます。


「9人の同胞が、絶望感にさいなまれながら孤独死を選ばざるを得なかった。悲しいことだ。明日は我が身か」


と身につまされるのでははなく、


「人類が生存可能な惑星が3つもあった。何という幸運、希望の光」


とワクワクできるようなメンタルでなければ務まらない職業であるわけですね。


私は逆立ちしてもなれませんや。


さて、ここまでの段階では主人公たちも観客も、性善説しか信じていません。


「人類の生存が可能(移住可能)な星を発見した」という合図を受けた主人公たちは、それを確認に行きますが…。


1件目は女性パイロット(ミラー博士)の早とちりでした。


その星は海だけで陸地がない水の惑星。


隣接宙域にあるブラックホール(巨大重力)の潮汐力で定期的に巨大津波(こればかりはCG)が発生し、少なくとも地球人類の生存は不可能な星でした。


そして2件目は、男性パイロット=マン博士(演じるのはマット・デイモン)が生の誘惑に負けて送った、嘘の合図でした。


マット・デイモン画像はシネマカフェよりお借りしました。




はい、ここでやっと「弱い人間」が登場します。


マン博士が送られたのは、雲も凍るほどの極寒の、氷の惑星。

土壌はなく、大気の組成もメタンが主。


人類はとうてい住めない。


しかしマン博士は人類生存可能を示す偽のデータを作り、嘘の合図を送っていました。


そうすれば、後発隊がやって来て、自分をコールドスリープから起こしてくれるから。

そうしなければ、永遠に眠り続ける=孤独死しかないから。


マン博士は嘘で後発隊を呼び寄せ、隙を見て宇宙船を奪い取り、地球に戻ろうと計画していました。


先発の惑星探査パイロットには、道中の孤独を癒すための相棒=AIロボットが1台ずつ与えられています。


マン博士に与えられていたのは、TARSやCASEと同型のKIPPというロボット。


しかし、主人公が到達してコールドスリープ中のマン博士を覚醒させた時、KIPPはマン博士の手によって既に壊されてしまっていました。


孤独に耐えかねて精神に変調をきたすくらいなら、話し相手になるロボットは残しておけばよかったのに。


と、一瞬思います。


しかし、おそらくKIPPはマン博士が嘘の信号を送ることに反対したのでしょう。


ロボットゆえに。


死に対する恐怖を与えられていないために、マン博士の心情が理解できなかった。

なので口を封じられた。


KIPPはひょっとしたら「正直度:100%」に設定されていたのかもしれません。


マン博士は主人公に言います。


マン「人は、自らを犠牲にしてまで人類という種を救おうとはしない。家族を守る」


実際、主人公は「我が子を守りたい」(我が子を地球よりも希望のある星に移住させたい)一心でここまで来ています。


しかしマン博士はまだ独身です。

そうなると自己保存が、人類という種を救うよりも優先するという理屈になります。


マン博士は本作では悪役のように描かれています。

しかし私は小物なので、彼にひどくシンパシーを感じてしまいました。


続けて彼は言います。


マン「感じるか?生存本能を。生存本能が私を突き動かす。我々皆を突き動かす。そして我々を救うのだ。私は人類を救う。君らに代わって」


わたくし流に解釈すると、誰かがその他大勢を救い、その他大勢は救われるのを待つだけではダメだ。


一人一人が自らの生存本能をフル活性化させて、自ら生き延びなければならないというんですね。


そして、彼が嘘をついてまで生存本能に正直なのは、彼には生き延びることによって人類を救う力がある。

ゆえに孤独死にあらがわず、おめおめと野垂れ死を受け入れる選択肢などない、と。


多少精神に変調をきたしているとはいえ、この気概よ。


ちなみに彼のフルネームは、ヒュー・マン(Hugh Mann)という設定です。


human(人類)のメタファーであることは言うまでもありません。


結局主人公からの反撃に遭い、彼は宇宙の塵となってしまいますが。





蛇足:human(ヒューマン)をメタモルフォーゼしたキャラクター名には、日本が誇る

  「星 飛雄馬」(ほし ひゅうま)もいます。

  ©梶原一騎/川崎のぼる