マンガ書評>番外編:私の嫌いなマンガキャラ<女性編>間人媛
先に公開した記事で、好きなマンガキャラ<男性>に厩戸皇子(日出処の天子/山岸凉子)をあげました。
そこからの派生記事です。
間人媛(はしひとひめ)
厩戸皇子の生母・穴穂部間人皇女(あなほべのはしひとのひめみこ)は実在の人物です。
第29代欽明天皇の第三皇女で、第31代用明天皇の皇后。
母親は蘇我稲目の娘=蘇我馬子の妹。
用明天皇との間に生まれた長男が厩戸皇子。
ここまでは史実です。
マンガ家・山岸涼子先生の描く間人媛は、おそらくこの時代(飛鳥時代)の美人の条件だったと思われる、二重あごのぽっちゃり体型で色白でおちょぼ口の、一見おっとりと優しげな狸型美人。
周囲からも優しい人、良妻慈母と思われています。
しかし実は長男(厩戸)の持つ超能力を感じ取り、恐れて・・・と本人は言いますが忌み嫌っています。
幼い長男が母を慕っても拒絶して遠ざけ、家庭内隔離をして世話は使用人任せ。
そして次男以下(特に次男)を溺愛。
なぜ自分がそういう目(ネグレクト)に遭うのか理由がわからない長男(幼児なのだから当たり前)は、思春期頃には性格に歪みと闇を抱えるようになります。
当然、弟たちとの間にも深い溝ができます。
自分が生んだ複数の子どものうち1人だけを可愛いと思えず、ついネグレクトしてしまう。
いけないことだとは思っても、どうしても愛せない。
これは実際にも聞く話ではあります。
しかしこの間人媛は、長男拒絶をいけないことだとは夢にも思っていない。
どころか自分こそが被害者だと信じています。
「あの子は怪物だ。自分の子とは思えぬ」※1
「私はあれ(厩戸)が恐ろしい」※2
「あれも私を母だなどと思ってはいるまいし」※3
※1:弟の穴穂部皇子が「姉上がこう言っていたぞ」とばらした。
厩戸は泣いて激おこ➡穴穂部皇子を殺害。
※2:溺愛する次男の前で、兄(長男)のことをこう言う。
※3:従弟の蘇我蝦夷(マンガの中では毛子)に愚痴る。
自分が息子をネグレクトしているのではない、息子が私を母と思っていないのだ、と本気で考えています。
また間人が忌み嫌う厩戸の超能力は、まさに間人からの遺伝のようなのに、その自覚も露ほどもありません。
物語も終盤頃に蘇我蝦夷(間人から見ると従弟)に「あの子は異常」「あれを大王(おおきみ=天皇)にしてはいけない」と愚痴り、その言い草はあんまりだ!と憤慨した蝦夷からその点を指摘される間人媛。
「(厩戸を異常と言うなら)その元凶はあなただ!」
間人媛はただただ驚いて、被害者面してメソメソと泣くだけ。
自分で自分を善人と信じて憚らず、周りからも善人扱いされてチヤホヤされ、その実は悪意なき元凶者という実社会でもあるあるなパターン。
そして息子はとうとうこういう行動に出ます。
間人媛と顔立ちやぽっちゃり具合が生き写しの、かなり重度の知的障碍を持つ浮浪者の少女に美郎女と名付けて妃にめとる。
知的障碍の娘なら、永遠に自分の異能力に気づくこともなければ、それで自分を疎ましがることもない。
そして容貌はあくまで(自分を拒絶し続けた)母・間人媛に生き写し。
これはあまりにも痛すぎて、読者の精神にダメージを与えるシーンでした。
33歳から37歳(連載期間4年)の若さでこれを描いてしまった山岸凉子先生は、少女漫画界のレジェンドとなりました。
私は・・・本作の後も何百という作品(マンガ・小説合わせて)を読みましたが、この間人媛以上に嫌悪感を禁じ得ないキャラクターには、まだ出会っていません。
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