マンガ書評>平家物語夜異聞:コメディの仮面を被った骨太歴史大作
評価:🌟🌟🌟🌟🌟4.6(5点満点)
ブックオフで見かけた1巻2巻を何気に買ったらびっくりするほど良作で、でもあまり世間に認知されていないのか何なのか3巻(完結巻)だけは見当たらず、新刊で購入しました。
完結巻だけが不自然に厚い(1・2巻の1.5倍近いボリューム)というのは中途打ち切りになった作品の特徴です。
嗚呼、こんな良作を打ち切りやがったか角川~~~(恨)
ちなみに「源氏物語夜異聞」と書いて「へいけものがたりよるくんのおはなし」と仮名がふられています。

作者・黒崎冬子さんは武蔵野美大卒業で2019(令和元)年に角川からプロデビューした女性です。
作風は「真面目なテーマをギャグ盛り過ぎ作風で描きながら、最後は真面目に着地する」

このパンクな人が平清盛…(汗)☝ 作中では「おっさん」と呼ばれています。
本作は簡潔に言えばタイムスリップ物です。
「平安時代にタイムスリップしてしまった幼馴染の高校生男女が、それぞれ源氏と平家に身を寄せることになり、壇之浦合戦までの興亡の歴史に身を置く」
割と最近ありがちな設定ですが、しかし。
これが黒崎さんの作風に従って、ギャグが盛り過ぎで皿から溢れてテーブルにまでこぼれまくっているような感じで進むのですが、要所要所の史実はビシッと押さえてあります。
黒崎さんがインタビューでこのようなことを語ってらっしゃるのを見つけました。
(一部要約)
「平家は歴史では悪者に描かれていますが、調べて見ると家族仲や兄弟仲はとても良く、女房(使用人、住込みメイドさん)たちにも優しかったエピソードがたくさん残っている。
一方源氏は、頼朝もその父も兄弟で殺し合い(平家を滅亡させ天下を取った後も)源氏同士が疑心暗鬼になり殺し合いわずか三代で家が途絶えてしまっている。だから、家族像に踏み込んで描きたい」
「勝てば官軍」「歴史書を書く者は勝者にゴマをする」ものですから、平清盛や(晩年の)豊臣秀吉に関する悪い描写は、かなり誇張されているのでしょう。
そのため黒崎さんは、高校生男女のダブル主役ではありつつも主役比重の高い、タイトルにもなっている「夜くん」(男子の方)を平家方に付けています。
そうすることで、敗者の運命である平家の家族の事情の方により深く踏み込んだ内容となっています。
人物相関図画像は黒崎さんのXよりお借りしました。

平家が滅亡に向かって突き進む3巻は、世論が「泣く、泣く」「エモい、エモい」と連呼すればするほど目が乾くという天邪鬼(あざといお涙頂戴物が苦手)な私ですら心臓を掴まれて揺さぶられるような展開となっております。
本気で不特定多数のみなさまにお勧めしたいので、ネタバレを避けてぼかした表現になっておりますが、いやほんとお勧め。
3度目になりますが、世に知られていない良作です。
下は「平家…」より前の作品、初連載の「無敵の未来大作戦」(全3巻)です。
さすが美大出身、馬のデッサンが秀逸です。
画像はコミックナタリーよりお借りしました。

売れっ子マンガ家でも馬の骨格をきちんと描けてる人は本当に少ないです。
人物デッサン力にかけては現役日本人マンガ家でトップクラスのヤマザキマリさんですら、テルマエロマエに出てきた馬の花子はかなりデッサンがあやふやでいらした。
その点この馬の絵は、骨格といい筋肉といいパーフェクトです!
次はこれを読んでみたいと思います。


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