博物館>養蚕の記憶と愛すべき蚕:東京農工大学科学博物館❸
❶と❷はこちらです。
常設展示のメインは養蚕関連です。
これは東京農工大が東京農林専門学校(内務省樹木試験場が前身)と東京繊維専門学校(農商務省蚕病試験場が前身)が統合されて誕生しているためです。
蚕は、昆虫でありながら家畜です。
カイコ(蚕/蚕蛾)は、養蚕(絹の生産)のために家畜化された昆虫です。
野生個体が生息しないため家蚕(かさん)とも呼ばれます。
野生回帰能力を完全に失った唯一の家畜化動物であると言われます。
家畜化昆虫には他にセイヨウミツバチ(養蜂)コオロギ(食用)ナミテントウ(天敵製剤)などがありますが、いずれも逃げたり逃がされたりすれば野生に戻ることが可能です。
蚕はそれが不可能なまでに徹底的に家畜化されてしまっているのです。
蚕は人間による管理なしでは生存すらできません。
カイコを野外の桑の木(蚕の餌は桑の葉)に放っても、葉を探さないまま餓死します。
また脚の握力が弱いため、木から落下して死んでしまいます。
成虫の翅も筋肉の退化により、動かすことはできても飛べません。
蚕の祖先はクワコ(桑子/山蚕)と呼ばれる茶色い蛾です。
普通に飛べます。
このクワコが5,000年前に人間に飼われ始めたことで進化の分化が起こり、純白で飛べない蚕が誕生しました。
今では全く別種とされるほどに違っています。
交雑だけはまだ可能です。
実は私も小学校低学年の頃に3年ほど蚕を飼ったことがあります。
知り合いのまた知り合いが細々と養蚕を続けていた農家で、幼虫をもらったためです。
実は私はモスフォビア(蛾恐怖症)兼バタフライフォビア(蝶恐怖症)。
本来は写真を見ただけでも全身に鳥肌が立ち、正視できないのです。
しかしこの純白の蚕だけは幼虫も成虫も平気でした。
蚕の幼虫は虫感が低いんですよ。
犬猫以上に人間に依存してくるからだと思います。
飼育箱のあっちの隅っこに桑の葉を置いても、蚕の幼虫は歩き回って探そうとはしません。
その代わりに人間の方を向いて立ち上がって「餌を下さい」に見えるポーズをします。
桑の葉を目の前に置いてあげると初めて無心に食べ始めます。
意地悪して食べてる途中の桑の葉を取り上げてもう一度離れた所に置いても、追って行こうとはしません。
代わりにまた人間の方を向いて立ち上がって「餌を下さい」に見えるポーズをします。
この可愛さにやられました。
クラスメイトにはさんざん「気味がわりい」と言われましたけどね。
戦前までの日本人はこの蚕を「御蚕様(オカイコサマ)」と呼んで大切にしました。
絹が米や野菜に比べて遥かに高額で売れるからですが。
方言にも敬称がついたものがあります。
(一例)
- 御白様(オシラサマ/オシロサマ):静岡県/山梨県
- 白様(シロサマ) :山形県
- とどこ様 :秋田県/青森県/岩手県
- こごじょ様 :富山県
- こな様 :八丈島
戦後急速に忘れられてしまっている養蚕。
それにまつわる貴重な資料がたくさん展示してあります。
メイン展示以外についてはもう1回だけ続きます。
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