イヌフグリとオオイヌノフグリと天人唐草
この時期、東京都心にさえ至る所に咲いているオオイヌノフグリ。
大昔から日本にいますという風情で咲き乱れていますが、実は明治時代に欧州から入ってきた帰化植物です。
もともと日本には一回り小さいイヌノフグリがありましたが、外来種のお約束として繁殖力の強いオオイヌノフグリに追いやられ、今ではほとんど見られないそうです。
オオイヌノフグリは青色ですが、イヌフグリはピンク色です。
山岸涼子の旋律的名作「天人唐草」(1979年)では、無邪気に「イヌフグリ可愛い」と言う幼い娘(主人公・響子)が、厳格な父(毒親)から「女の子がそんな言葉を口にするな!」頭ごなしに𠮟りつけられ「天人唐草」と呼ぶように命じられる場面から始まります。
なぜ駄目なのかという理由は当然のごとく説明されません。
父が禁じるからダメ、女の子だからダメ。
このようにして毒父からがんじがらめにコントロールされた響子が、20数年をかけて徐々に精神を病んでいくお話です。
発表されたのは今から44年も前、まだ毒親という言葉さえ存在しなかった時代です。
毒親(toxic parents)という言葉を創作したのはスーザン・フォワードという人物で1989年だと言われます。
日本で使われ出したのは2000年代半ばから。
週刊少女コミック編集部から「青春物を描いてください」という依頼を受けてこれを描いた山岸涼子先生の、時代の先取りっぷりに畏怖の念を禁じ得ない名作です。
「イヌフグリ」を漢字で書くと「犬殖栗」。
つまりオス犬のタマちゃんのことです。
「だから女の子がそんな言葉を使ってはいけない」
と響子の毒父は怒った理由はこれだったわけですが、だって正式な標準和名ですよ?
そんなに嫌悪するのなら日本植物分類学会に標準和名の変更を申請してください。
変更は正規の手続きを経て認められれば可能です。
「女の子が使ってはいけない言葉だから」で認められるかどうかは知りません。
「天人唐草」や「瑠璃唐草」は響子の毒父よりも先人が考案した美しい代替名ですが、しかしもう全くと言っていいほど普及しませんでした。
語感が美しけりゃ受け入れられるというものでもなさそうです。
今でも「天人唐草」と検索すると「山岸涼子の短編マンガ」としか出てきません。
もしご存じない方は是非どうぞ。
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