ウィッシュフル・ヒアリング(期待聴取)が発生したのか?:日航機・海保機衝突事故
管制塔と日航機、海保機の交信記録が公開されました。
海保機機長が証言したとされる「離陸許可は出ていた」に相当する交信記録が、そこには存在しないことがわかりました。
「海保機機長が何かを聴き間違えた可能性」
が、通信記録公開前から指摘されていました。
しかし公開されてみると、聞き間違えるほどのイレギュラーな内容は見当たりませんでした。
いわゆるルーティンと言っていい用語ばかりが並んでいました。
となると、ウィッシュフル・ヒアリング(期待聴取)が起きてしまったのでしょうか。
【航空用語】ウィッシュフル・ヒアリング(期待聴取)とは
耳で聴いた音声が、自分が(無意識に、を含めて)「聴きたい」と願っている言葉に聴こえてしまう現象。
wishful:望んでいる、希望的
私たちは目で物を見、耳で音を聴いていると思っていますが、実はどちらも処理しているのは脳です。
物理的刺激(光の波長)を脳が処理して初めて色と認識する。
物理的刺激(空気の振動)を脳が処理して初めて音と認識する。
つまり処理する側=脳の個性やコンディションによって、処理結果(何が見えるか、何と聴き取るか)は左右されるものなのです。
例えば目に映った物が靴の中敷きでも、飢えていたら(食べ物を切望していたら)脳は簡単にそれをハムやベーコンに見間違えます。
そこまで追い詰められた状況でなくとも、むしろ平常運転モードでも、人間の脳は常に
「見たいと思ったものを見て、聴きたいと思ったものを聴き、希望的観測(だったらいいな)に則って理解している」
とも言われます。
(JR東日本)
ヒトの脳は常に希望的に解釈する
例えば信号の黄色の意味は、ズバリ「止まれ」です。
黄色になったら停車し、赤の間は決して発進してはならず、青で初めて発進しても良し。
これが正しい道路交通法の規定です。
道路交通法施行令 第二条 黄色の灯火
車両及び路面電車は、停止位置をこえて進行してはならないこと。
ただし、黄色の灯火の信号が表示された時において当該停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合を除く。
つまり、黄色に変わったタイミングによって急ブレーキをかけないと止まれない場合は、急制動で事故を起こすくらいだったら止まらず通過してもやむなし、と言っています。
しかし、実際は多くのドライバーが
「黄色はもうじき赤(止まれ)になるから注意して走行せよのサイン」
と覚えてしまっていて、そのように運転しているのが実情です。
黄色=止まれと正しく理解している人の方がむしろ少ないと、歩行者の立場から常日頃感じています。
公開された管制塔と海保機のやり取り
管制塔「C5上の滑走路停止位置まで地上走行してください」
海保機「滑走路停止位置 C5に向かいます」
海保機の機長は、指示を正しく復唱しています。
つまり単純な「聞き間違い」は、この交信記録を見る限りでは、起きていないと思わざるを得ません。
しかし実際には、この後海保機は停止位置 C5を越えて滑走路内まで進んでしまいました。
ウィッシュフル・ヒヤリングとウィッシュフル・シンキング(希望的解釈)※が発生してしまったのでしょうか。
※ウィッシュフル・ヒアリングは航空用語ですが、ウィッシュフル・シンキング航空用語ではありません。
「一刻も早く被災地に救援物資を届けたいのに、出発が遅れてしまっている」
という純粋な善意や正義感、使命感といったものが無意識に起因となったかもしれないと考えると、辛いのですが…。
フライトレコーダーの解析結果が発表される前ですが、可能性の一つとしてつい考えてしまいました。
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