雑談>生きる>ライオンとトラ
数年前、神奈川県にある、とある動物園に行きました。
運よく「猛獣のお食餌タイム」に居合わせ、ライオンとトラのつがいの食餌風景を見ることができました。
食事はどちらも馬肉と、鶏の頭でした。
飼育員はまずライオン舎の方に肉を入れます。
立派なタテガミを持つオスライオンが、低いうなり声を上げながら肉を食べ始めました。
ところがメスライオンは少し離れた場所から動かず、肉に無関心なふうを装います。
飼育員が解説します。
「ライオンは、家族ごとに群れをつくります。群れは1頭から3頭のオスにそれより多いメス、子どもで構成されます。
メスたちは母娘、姉妹など、血縁関係にあります。
狩に行くのはほぼメスだけです。メスは持ち帰った獲物をまず真っ先にオスに食べさせます。次が子ども、メスたちは最後です。
生まれた時から動物園で飼われていても、メスはこうやってオスが食べ終わるまでは肉に近寄りません」
客から「おおー」と歓声が漏れます。
ご高齢カップルのご主人から「ヤマトナデシコだな!」というご満悦の独り言がこぼれたのを私の地獄耳は聞き取りました。
こちらの淑女、ルーツはアフリカですが・・・。
逆隣にいた若いカップルのカノジョの方が「ヒモw 」とつぶやいたのも聞こえました。
飼育員は次にトラ舎の方に肉を入れます。
大柄なオスとやや小柄なメスは、同時に肉に食らいつきます。
また飼育員が解説します。
「トラはオスとメスが別々に自分の縄張りを持ち、繁殖の時くらいしか会いません。
自分が狩ってきたものを自分で食べます。なのでライオンと違い、お互いに遠慮は一切しません。
ライオン以外のネコ科肉食獣は、全部トラ型です。
そのかわりメスは女手ひとつで子供を育てるので、狩に行くときは幼い子どもを隠して出かけなくてはいけません。
トラはまだしもチーターなどでは、その間に子どもが他の肉食獣に捕られることも非常に多いんです。
その点ライオンはオスが留守を守るので、子どもの生存率が高いです」
つまり、ライオンのメスが苦労して狩ってきた獲物をまずオスライオンに与えるのは
「子供を守ってくれる報酬」
なのでしょうか?
その代わり、年老いて力衰え、群を守れなくなったオスは、やがて若いオスに群を乗っ取られ、放逐されます。
何年もやってこなかった狩の成功率は低く、彼は痩せ衰え、老衰という名の餓死を迎えます。
娘たち、孫娘たちに囲まれて逝くメスと比べ、孤独な最期です。
しかし、彼に悔いはないでしょう。
狩れもまた若い頃、年老い力衰えたオスに戦いを挑み、追放して家族を得たのですから。
一方ライオン以外の猫科獣のメスは、どれほど苦労して育てた子といえど手元には残しません。
やがてひとりで迎える孤独な最期に性差はありません。
どちらが幸せなどと考えること自体が、人間の驕りです。
人間に途中で断たれない限り、彼ら彼女らは何の不満もなく、ただその生の終わりを受け入れるだけです。
私は、彼らの数分の一でも、そんなふうに気高く生きることができるでしょうか?
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