心理学>「フット・イン・ザ・ドア」:依頼のテクニックsideB
こちらから続いています。
ここ10年ほどで日本でも「(ある程度)放っておく接客」が主流となりました。
昔の私はセルフ方式の店・量販店+本屋(個人経営であっても基本は放置)を除いて買物が大嫌いでした。
店に入ったとたん、いいえ店の前で立ち止まって商品を見たとたん、まだ触ってもいないのに飛び出してくる店員さん。
「どうぞお手に取ってください」
「ご試着もできますよ」
「サイズはいくつですか」
「どうぞ中へ」
「ご予算は」
私はこれでもう買物意欲がゼロになってしまうタイプです。
👇買物意欲が幽体離脱の図。
先日も(モールのテナントだから密着接客しないだろう)と油断して立ち止まった某靴屋(某メーカー直営ショップ)で、展示見本の靴の底※を確かめようと手に取った瞬間。
※私、靴底の形状にこだわるんです。
「どーぞ履いてみてくださいサイズお出ししますよー!」
と元気いっぱいの声で小走りで出てきた、かなり人生の先輩のお姉さま。
おそらくお若い頃(密着接客が主流の時代)から販売職をされていて、即声がけ・密着接客が身についてしまってらっしゃる。
先輩「サイズおいくつですか、お出ししまーす!」
私 「いえ、けっこうです」
そっと靴を置いて離れる私。
通路向かいの雑貨屋に移動してもまだ背中に視線を感じるのでチラッと振り返ると、先輩は
(信じられない)という顔でポカンとこちらを見送り続けてらっしゃいました💦
結局、モールを出て商店街の別の靴屋に移動。
そこは私が店内で勝手に試し履きを初めても完全にスルー。
何足履いてもひたすらスルー。
サイズまで決めて「これくださーい」と言うまで潔いほどのガン無視を貫いたABCマート(路面店)。
はい、そこで買いました。
\レジ打ちだけ!/
この「即声がけ即接客」は、かつては「フット・イン・ザ・ドア Foot-in-the-door technique/FITD」(日本語訳:一貫性の法則あるいは段階的要請法)として非常に有効であると認識され、日本では主流の接客方法だったと思います。
フット・イン・ザ・ドア Foot-in-the-door technique/FITD」(段階的要請法)
これは「断りにくい小さな要請から初めて徐々に『断る自由』を奪う」テクニックです。
人間は一度小さな依頼に応じてしまうと、その既成事実に拘束される傾向があります。
次のほんの少し大きな依頼に対し、ある種の「断りにくさ(心理的抵抗)」を感じてしまうのです。
例1⃣あなたは新しい靴が欲しいが今日買う気はなく、ただの下見です。
店員「どうぞお手に取ってみてください」
客 (手に取る)
店員「履いてみてください」
客 (履いてみる)「ちょっときついかな」
店員「一つ上のサイズですね、ありますよ」
客 「うん、ちょうどいい」
店員「両足履いてみてください」
歩いてみてください。お鏡で見てください。とってもお似合いですよ。
今日は下見だけで買うのはボーナスが出てからのつもりだったあなたは、結局レジでカードを出しています。
「じゃあ、ボーナス一括払いで・・・」
人は誰しも程度の差こそあれ、他人から
「自分は一貫性がある(一本筋の通った)人間である」
と認識されたい「承認欲求」を持つためであると心理学では説明されます。
👇「承認欲求」で出てきたイラスト。
逆に言うと「優柔不断」とか「ポリシーがない」と思われたくないということです。
日本に靴屋は星の数よりは少ないけど野生のヒグマよりは多く存在し、あなたに合うサイズの靴は他の店にも多数あります。
それでも断りにくいのです。
これは「ドア・イン・ザ・フェイス」で使った借金のテクニックにも使われます。
同じ1万円を借りたいとします。
例2⃣ あなたは誰かから1万円借りたいと思っています。
❶最初から「1万円貸してほしい」と交渉する。
❷最初は「3千円貸してほしい」と言い、承諾されたら「ギリギリだと心配だから5千円、いや1万円でもいいですか」と交渉する。
実は❷の方が1万円を貸してもらえる確率が上がることが心理実験でも証明されています。
話術は必要です。
貴方「今月は予定外の出費があったせいで本当に苦しくて…。給料日までまだ一週間あるのに、食費も危ないんです。どうか3千円、貸してもらえませんか」
相手「大変だね。3千円くらいならまあ、いいよ」
貴方「ありがとう✨あ、でも、何かあるといけないから、念のため5千円。いや、給料日に返しますから、切りよく1万円でもいいですか❓」
この場合も、3千円➡1万円に釣り上げる二段階要請よりも、3千円➡5千円➡1万円とステップバイステップにつり上げる三段階要請の方がより承諾される確率が高くなることが、やはり心理実験で証明されています。
いきなり1万円貸してと言われたら(私だって給料日前なんだ)と思う人も、一度3千円ならいいよと言ってしまったが最後、1万円を断ると(覆すと、ケチだと思われないか)というブレーキが働くのです。
フット・イン・ザ・ドアとドア・イン・ザ・フェイスは、時と場合に応じて、また人によって巧みに、日常的に使われています。
知識として知っておくだけでも、まんまと乗ってしまって後悔することが減ると思っています。
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